極上御曹司のイジワルな溺愛
今の時代、大広間での夕食というのが多くなっているが、ここは古くからのスタイルのまま、部屋でのんびり食事を取ることができる。
蒼甫先輩曰く、「ふたりの時間を誰にも邪魔されたくないから、ここに決めた」ということだが、素直に嬉しい。
レストランや食堂なら当たり前なことでも、泊まりに来ているときぐらいは、その時間もふたりで楽しみたいと思っていた。それが蒼甫先輩なら、なおさらだ。
旬な食材を使った会席料理は、全国的にも有名な牛のサーロインステーキや地元の川で採れた川魚、地元野菜などの新鮮な食材で作られていて、どれから食べようか目移りしてしまう。
「豪華ですね」
「ああ。ここは歴史ある建物と自然に囲まれた情緒豊かなことが良いが、この料理も人気だからな。椛と旅行なら、まずはここだと決めていた」
「そ、そうなんですか。蒼甫先輩、ありがとうございます」
蒼甫先輩は言うことが正直すぎるというか、寸分たりともズレることなく真っ直ぐすぎて照れてしまう。
本当は私だって嬉しさや感動を、もっと正直に伝えたい。今だって一言「嬉しい」と言えれば、もっと蒼甫先輩に近づけると思うのに。
先輩と後輩、副社長と社員の仲が長かったせいか、どうもうまく愛情表現できない。