極上御曹司のイジワルな溺愛
箸を手にしたままそんな事を考えていると、蒼甫先輩が大きく溜息をついたのに気づき顔を上げる。
「なあ椛。俺はいつまで先輩で、お前は敬語で話すんだ?」
「え?」
言われてみれば、そのとおりだけど。そんなこと考えたこともなかったから、おかしな反応になってしまった。
蒼甫先輩は目の前で腕を組み、私の出方を今か今かと待っている。
私にとって蒼甫先輩は、いつまで経っても蒼甫先輩で。その人が副社長なんだから、敬語も普通のこと。付き合うことになったからと言って、すぐに変えられるものじゃない。
でも今のままでは、ふたりの距離は近づかない?
とは言うものの、どうしていいのやら全然思いつかない私は、う~んと唸るしかなかった。
「そんな難しく考えることか? いいか、『ねえ、蒼甫』って言ってみろ」
「はあ!? 先輩、何言ってるんですか? そんなこと無理に決まってるじゃない……ですか」
ほら。敬語だって崩して話すのは難しいのに、蒼甫って呼び捨てするなんて絶対ムリ!
顔を横にぶんぶん振って拒否する。
「そうか、無理なんだ。椛の俺に対する気持ちは、そんなもんだってことだな」
悲しそうに俯く蒼甫先輩を見て、心がギュッと痛む。
「な、なんで、そうなるんですか? 先輩は立場が上だからいいですけど、私は……」
痛む胸元の浴衣を握り考える。
どう言ったら、私の気持ちを伝えられる?