極上御曹司のイジワルな溺愛
「せん、ぱい?」
一体どうしたというのだろう。
何故か目を逸らされてしまい、急激に悲しみが襲ってくる。
何か悪いことをしてしまったのだろうか。でもそうだとしても、その理由がわからない。
もう一度小さな声で「蒼甫先輩?」と呼びかけると、少しだけ照れくさそうな顔をして蒼甫先輩が私を見た。
「悪い、そんな心配そうな顔をするな。やっぱりしばらくは、今までどおり先輩でいいぞ」
「え? でも……」
「椛に蒼甫って呼ばれると困るということが、今わかった」
困る? 何が困ると言うのだろう。
小首を傾げると、蒼甫先輩がフッと微笑む。
「何も手につかなくなる。きっとどこに居ても、お前を抱きしめたくなるだろうな」
「それって……」
「職場で抱きしめてもいいか?」
そう言って笑い出す蒼甫先輩に、私は頬を膨らませた。
「それはお断りします」
「そう言うと思った。でも二人っきりのときは、できるだけ名前で呼んでほしい」
「努力、してみます」
「ああ、よろしく」
蒼甫先輩はそう言って右手を差し出し、私はその手をぎゅっと握り返した。