極上御曹司のイジワルな溺愛
今だって──
その艷やかな唇に触れられたい、長いまつげを持つ瞳に見つめられたいと、邪な気持ちが私の体を蹂躙する。
朝っぱらから何を考えているんだ、私……。
小さく息を吐き頭をふるふる振って邪念を吹き飛ばすが、すぐには消えてくれなくて。
「どうした? 気分でも悪いのか?」
私の変な様子を見て勘違いしたのか、蒼甫先輩に心配そうな顔をされてしまった。
「大丈夫です。そ、それより、朝食も美味しそうですね!」
もちろん、気分なんて悪くない。それこそ絶好調だ。
テーブルを挟んだ前には想い人がいて、目の前には体に良さそうな食事が並んでいる。
温泉旅館の朝ごはんの定番、温泉卵に手作りの寄せ豆腐。地魚の開きにこの地方の郷土料理の朴葉みそが、卓上コンロの上でチリチリと音を立てていた。
こんな盆と正月が一緒に来たような状況で、気分が悪くなるなんてあるわけがない。
でもいやらしいことを考えていたことがバレるわけには行かない私は、必要以上に元気さをアピールして、蒼甫先輩に疑いの目を向けられることとなってしまった。
冷静に、普段どおりで──
自分にそう言い聞かせると、蒼甫先輩へとゆったり微笑みかけた。