極上御曹司のイジワルな溺愛

「でも物分りがいい、というのはちょっと違うかも。私だって我慢してるんですよ?」
「そうなのか?」と、少し目を見開いた蒼甫先輩に、こくんと頷く。

その仕草がよほど満足だったのか、先輩は箸を持ち直すと、マッハの速さで朝食を平らげていく。

な、なに!? 一体どうしたというの?

その光景に驚き大口を開けていると、蒼甫先輩がにやりと笑う。

「どこかで昼飯だけ食ってそのまま帰ろうと思ってたけど、やめた。予定通り観光して帰るから、さっさと食え」
「はぁ!? さっさと食えって、そんなぁ」

朝食はゆっくり食べないと消化に悪いって、おばあちゃんが言ってたんですけど……。と言ったところで、蒼甫先輩には効き目がないだろうと口をつぐむ。

それに。蒼甫先輩の表情がなんとも生き生きしていて、怒る気力もなくなってしまった。

初めて食べるものもあるし、ゆっくり味わいたいところだけど。

蒼甫先輩と楽しむ時間が増えるのなら、それはそれで悪くない。

「この豆腐、うまいぞ」
「はい。いただきます」

明日から、また忙しい日々が始まる。蒼甫先輩が仕事に戻るその時まで、無駄な時間がないように過ごそう。

そんな幸せな気持ちのまま、残っていた朝食を急いで食べ始めた。





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