極上御曹司のイジワルな溺愛
「マジでドンピシャか? でも心配するな。椛とふたりっきりの時間を邪魔されたくないからな、丁寧に断っておいた」
当たり前だろ──
ふいに目線を私に向け、髪をくしゃくしゃっと掻き乱す。
「何するんですか! せっかくブローしたのに。それに……」
蒼甫先輩の手を払い除け髪を手ぐしで整えると、蒼甫先輩へと向き直る。
「人の心を勝手に読まないでください!」
「わかりやすい顔を俺に見せる、椛が悪い」
「わかりやすい顔って、それこそ趣味悪くないですか?」
「そうか? 喜んで笑った顔、頬を膨らませて怒った顔、心配そうに目を潤ます顔。椛のどんな顔も見逃したくない、ただそう思ってるだけだ」
蒼甫先輩を見つめたまま、動くことができない。
どうしてこの人は、こっちが恥ずかしくなってしまうような言葉を、そんな淡々と言ってのけるんだろう。
ただ一言「愛してる」と言われるよりも心に響いて、何も言い返すことができなくなるじゃない。
ズルい──
私は先にいろいろ考えすぎて、先輩みたいに言葉で気持ちを伝えるのが不得意で。こんな時、素直に嬉しさを伝えることができない自分がもどかしい。
悔しさにほんの少し俯くと、膝においていた右手が大きな左手に包まれる。
「椛の気持ちはわかってるからな、無理して何か言おうとしなくていいぞ」
ひとつしか歳が違わないのに、やっぱり彼のほうがずいぶん大人で。
「また心を読みましたね?」
「さあな」
蒼甫先輩に勝てる──そんな日が来るのだろうかと、心の中で呟いた。