極上御曹司のイジワルな溺愛
「椛ちゃん、こっちだよ」
私を呼ぶ声が聞こえ振り向くと、里桜さんと一緒に笑顔で手を振る薫さんを見つけた。
「里桜さんっ!」
弾けるように駆け出し、席で立ち上がった里桜さんに抱きつく。
「うまくいって、本当に良かったです」
「もう、里中さんったら。でも、ありがとう。あなたには、いろいろ迷惑をかけたわね」
「そんな、迷惑だなんて……」
当然のことをしただけ──なんて言うのはおこがましいけれど、大好きな里桜さんに幸せになってほしかった。もちろん薫さんにも。
と。当の本人を見ると、両手を広げ何かを期待する目で私を見ている。
「な、なんで、すか?」
聞くまでもない。薫さんの言いたいことは何か、嫌というほどわかっている。
「なんですか?じゃないでしょ。僕にも“おめでとう”は? はい!」
やっぱり……。
里桜さんと同じように、僕もギュッと抱きしめて──そう言いたいんだろうけど。
そうは問屋がおろさない。一度抱きしめられてしまったら、離してもらえないのは目に見えている。
「薫さんも良かったですね。おめでとうございます」
里桜さんから離れすっと手を差し出すと、握手しましょうとニコリと微笑んだ。
「えぇ~、それだけ? 里桜のことは抱きしめたのに僕は無しなんて、そんなのズルいよ~」
不貞腐れた顔をすると、ぶーぶーと不満げな声を出す。