極上御曹司のイジワルな溺愛

「この人、いつもそうなの。どこそこ構わずに愛情表現するから、ホント困っちゃって」

わかる気がする。

でも里桜さんは困ったと言っておきながら、その顔は全然困っているようには見えなくて。幸せそうな笑顔に、こっちまで幸せのお裾分けをしてもらったかのように心がほっこりしてしまう。

「本当に良かった、里桜さんと薫さんにまた笑顔が戻って……」

ホッとして気が緩んだのか、わけのわからない感情が込み上げ言葉に詰まる。目には涙まで浮かんできてしまい、その顔を見られないように俯いた。

せっかくふたりが元の鞘に収まったというのに泣くなんて、みっともない──

深呼吸をひとつして気持ちを落ち着かせようとしていると、頭上から聞き慣れた声が降ってきた。

「誰だよ、椛を泣かせてるのは? まあ聞くまでもない、兄貴だろうな」

そう言って傍にあった椅子を引き寄せどかりと座り、私の体を抱き寄せる。驚いて顔を上げれば、不機嫌全開と言わんばかりの顔だ。

「おい蒼甫、来ていきなりそれはないだろう。俺はただ、抱きしめてもらおうと……」
「なんだと?」

キッと睨みつける蒼甫先輩の顔は、鬼そのもので。さすがの薫さんも、おののいている。

「蒼甫先輩、ちょっと落ち着いてください。私、誰にも泣かされてないですから」

蒼甫先輩の腕を掴むと、今度はその鬼の形相を私に向けた。

「じゃあ、なんで泣いてたんだ?」

怖い、怖すぎるんですけど……。

でも言わなきゃずっと、この怖い顔を向けられたままだよね。

それは困ると恐怖に顔をひきつらせながら、渋々口を開く。



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