極上御曹司のイジワルな溺愛

それから二週間後。

何故か今年はクリスマスイブとクリスマス当日の結婚式が多く、翌日の二十六日の今日、疲れ切った私はスタッフルームのデスクでぐったりと伸びていた。

「椛、昨日は本当にお疲れ様。まさかの新見さん病欠で焦ったけど、椛のおかげで助かった」

新見さんとは、雅苑と個人契約している大ベテランのMC(司会者)。

とても気さくな人で「丈夫だけが取り柄なのよ」と、私が知っている限りでは一度も穴を開けたことがない。

でも本人曰く「四十を超えると抵抗力が落ちる」らしく、生まれて初めてのインフルエンザになってしまったと、申し訳なさそうに電話がかかってきた。

とは言え体調が悪いからと言って、すぐに誰かと代わってもらえるほど甘い世界ではない。新郎新婦にしてみれば担当の司会者と顔合わせをし、細かい打ち合わせまでして一緒に作り上げてきたのに、それを当日になって違う司会者がやってきたらどう思うだろう。信頼を失い、結婚式自体を台無しにしてしまうことだってあるかもしれない。

だから私たちMC(司会者)は常日頃から体調を整え、万全な状態で本番を迎えられるよう心掛けて置かなければいけないのだ。

でもどれだけ気をつけて生活していても、病気になることは誰にだってある。もちろん私だってそう。

明日は我が身──ではないかもしれないけれど、こういうときは助け合いの精神で乗り切るしかない。

私も二日間で五つの仕事が入っていたが、新見さんの持ち分のひとつだけ受け持つことになり、超多忙な二日間を過ごした。



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