極上御曹司のイジワルな溺愛
けれど──

「大したことじゃありません。けど念には念を入れて、って感じですよ」

嘘も方便。

蒼甫先輩の腕の中でもぞもぞと体を動かして彼と向かい合い、何も応えない蒼甫先輩に自分から唇を重ねる。

「今朝はこれで許してください」

普段あまりしないことをする私に驚いたのか、蒼甫先輩が不意をつかれたように目を丸くする。でもそれも一瞬で、私の髪を梳くように撫でると、愛おしそうに微笑む私を見つめた。

「わかったよ。そこまで言うなら許してやる。でもこの貸しは、二倍、いや五倍にして返してもらうからそのつもりで」

蒼甫先輩はそう言って私の唇にキスをすると、「シャワー浴びるぞ」と起き上がり私に手を伸ばす。

「な、なに言ってるんですか!? 一緒になんか浴びません!」

ガバッと布団を被り、蒼甫先輩から身を守る。

「な~んだ、残念。せっかく隅々まで綺麗に洗ってやろうと思ったのに」

そんな嘘くさいセリフを残して、蒼甫先輩は部屋から出ていった。

「もう……」

何が残念よ。一緒にシャワーなんて浴びたら、それこそ蒼甫先輩の思う壺じゃない。好き勝手弄ばれてしまうに決まってる。

蒼甫先輩が部屋にいないことを確認し私も起き上がると、カーテンを少し開けて外の様子をうかがう。

「いい天気」

今日のこの雲ひとつない空そうのように、何事もなく澄んでいて温かい結婚式になりますように──

今の私は、そう願わずにはいられなかった。



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