極上御曹司のイジワルな溺愛

今までに使ったことはないが、ここは医務室だろうか。本来なら新郎新婦やゲストの具合が悪くなったときに使うであろう場所で、従業員の私が寝ているなんて……。

起き上がろうとして、その体を押し止められた。

「まだ寝てろ」

その口調は優しいのに、明らかに怒りを含んでいる。

今はおとなしくしておくべきだと瞬時に察した私は、そのままゆっくり体を戻した。

「副社長、なにか怒ってますか?」

やっぱり気になって、ぼそっと聞いてみる。

「今朝は何を食べてきた?」

「え? 今朝ですか? コンビニのカフェオレ……ですけど」

「カフェオレ? それは食べ物じゃなくて飲み物だろっ!」

副社長は急に声を荒立てると、呆れたように息を吐き天を仰いだ。

おっしゃる通りでございます。でも仕方ないじゃない、それしか冷蔵庫になかったんだから。

そう言いたい口を右手で押さえると、副社長に背を向けた。

「なんだよ、その態度は。そう言えばサークルの合宿のとき椛が料理してるところ見たことないけど、お前作れないとか?」

ヤバッ!

確かに合宿中、学校の調理室には一歩も足を踏み入れていない。うまくやって誰にもバレてないと思っていたのに、よりにもよって副社長にバレていたとは。

不覚だ──



< 29 / 285 >

この作品をシェア

pagetop