極上御曹司のイジワルな溺愛
「誰も頼んでない……」
自分でも驚くほどの低音ボイスが、ダイニングに響く。
「なんだよ、その言いぐさは?」
「だって、そうでしょ? そんな恩着せがましく言うくらいなら、最初から私なんて運ばなきゃよかったじゃない。偉そうに」
売り言葉に買い言葉──
相手は副社長だというのに、敬語も使わず暴言を吐いてしまった。
こんな事が言いたかったんじゃないのに、運んでもらったお礼をしようと思っていたのに……。
一度口から出てしまった言葉は消せない。そうわかっているのに、後悔ばかりが追いかけてきた。
「すみません。言い過ぎました」
そう言って頭を下げた私の耳に届いたのは、盛大な溜息。
「偉そう……か。まあ、いい。で、どうする? ここで暮らすのか?」
「それは……」
顔を上げるが、副社長はもうこっちを見ていない。横顔では、彼が何を考えているのかわからない。
「椛がここにいる大体の経緯は、さっき親父に聞いた。どうせ断れなかったんだろ? いいぞ、無理しなくて」
何の感情もないようそう言い放つ副社長の言葉に、何故か胸の奥が痛んだ。