極上御曹司のイジワルな溺愛
「どうした、しんみりとした顔して」
「なんでもないです。放っといてください」
元はと言えば、蒼甫先輩が「彼氏プレゼントか?」なんて言うから悪い。
そのせいで、嫌なことを思い出してしまったじゃない……。
いい恋愛をしてこなかった私は、本当になんにもない萎れ女だったみたいだ。
哀れな気持ちになって大きな溜息をつくと、いきなり蒼甫先輩に右頬を抓まれる。
「なんだよ、溜息なんてついて」
「ちょっと昔のことを思い出しただけで、別に大したことじゃないです。それより、ほっぺた痛いんですけど」
「離してほしかったら言えよ、その思い出したってことを」
言いたくないから大したことじゃないと言ったのに、どうしてそれを話さなくちゃいけないのか。
蒼甫先輩から顔をそむけようとすると、自然と私の右頬を抓んでいた指が外れた。
「痛いじゃないですか!」
「椛が勝手に引っ張ったんだろ」
勝手なことばかり言う蒼甫先輩の言葉を無視して、目の前に並んでいるネクタイに目線を下ろす。どれも素敵なネクタイばかりだったが、途中ひとつのネクタイに目が留まる。