ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~

4 不可解な恐怖


 最後の書類がばさりと下に落ちた音がした。
 シイナは片手で頭を庇い――あまり役には立たなかったが――もう片方の手で梯子の手すりにしがみついたままの姿勢で、控えめなシロウの声を聞いた。
「は、博士……大丈夫ですか?」
「ええ……何とかね……」
 ようやく答えた後、盛大に咳き込む。
 マスクの間から埃が入ったらしい。
 咳き込みながらも、梯子を下りる。
 シロウが気を利かせて梯子の周囲の散らばった書類を寄せていた。
 咳き込んだ拍子に滲んだ視界で、ようやくいまだ埃の漂う場を離れ、マスクを取った。
「資料を劣化しやすい段ボールに詰めたままにしておくなんて……」
 ようやく咳も治まり、顔を上げると、シイナは奇妙な顔をして自分を見つめるシロウに気づいた。
「シロウ?」
「――博士、大変申し上げにくいのですが、頭が、埃と蜘蛛の巣だらけです」
 至って神妙な顔つきだが、どこかぎこちない。
 頭にそっと手を当てると、薄いゴム手袋越しにも綿埃と蜘蛛の巣の感触がわかる。
 鏡がないので見ることはできないが、これは相当ひどい状態のようだ。
 シロウにもう一度視線を戻すと、手を口元にやって、笑いを堪えているようにも見えた。
 シイナは呆れたように言った。
「笑いたいなら、笑ってもいいわよ」
 視線を逸らしたまま、シロウは、
「いえ、不敬にあたりますので」
 と、辛うじて答えた。
 しかし、その態度がすでに不敬だと言おうとして、シイナはふとクローンも声を出して笑うことがあるのかと不思議に思った。
 笑いを堪えるシロウが、実際に笑うところを見てみたかった。
「笑ったからといって、あなたを罰したりしないわ。おかしいなら笑えばいいのよ。許可してあげるわ」
「本当に?」
 あくまで視線を逸らして問うシロウに、シイナは呆れつつも頷く。
「いいわよ。どうせここには私とあなたしかいないんだから」
 そろそろと、シロウはシイナに視線を戻した。
 きっとシイナの頭についた埃の固まりと蜘蛛の巣を見ているのだろう。
 大げさに吹き出したりせずに、あくまで控えめに声を殺して笑うシロウを見て、シイナも何だか堪えきれずに、笑ってしまった。
 久しぶりに笑ったと、思った。










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