ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~

「――」
 大きく息をついて、ふと気づく。
 あの夜のことを思い出したのに、いつも来るような嘔吐感がなかった。
 目眩もしない。

 それだけは、喜ぶべきなのか。

 この変化は、フジオミの変化でもあるのだと、シイナは悟る。
 そして、いかに自分がこれまで性行為の強制を嫌悪していたか、強制するフジオミを嫌悪していたかと言うことにも気づいた。
 だからこそ、今日のフジオミの言動には、反感を覚えたのだ。
 マナが去ってから、フジオミはシイナに対する強制を全てやめた。

 強制をやめたはずの彼からの、強制に近い願い。

 自分の仕事にまで口を出すなど、これまで無かったのに、何が彼にそれを言わしめたのか。
 直前まで、何の会話をしていただろうと思い返して、シロウの話をしていたのだと気づく。特別なクローンであると、フジオミに話した。
 そこで、シイナは奇妙な思いつきに眉を顰める。

 まさか――『嫉妬』か。

「――」
 気づいてから、シイナは呆れてしまった。
 フジオミは、自分とシロウが二人きりでどうにかなるとでも思っていたのか。

 自分がシロウを愛するとでも?

 馬鹿げた思考にシイナは鼻で嗤う。
 クローンを相手に恋愛感情が芽生えると、真剣に思っているのだろうか。
 クローンには子孫を残すどころか、性欲さえありはしないのに。

 全く以て理解することが出来ない。

 それとも、それこそが愛なのか。

 自分にはやはり、愛する心などないのだとシイナは自覚した。
 自分はそのような嫉妬など感じることはない。
 そして、安堵する。
 愛など必要ない。
 愛など、無意味なだけだ。
 そんな錯覚が、人類を滅ぼしたのだ。
 動物の生存本能を『愛』という幻想で打ち壊したために、今この時、自滅していくのだ。

 愚かな人間達。
 愚かな自分達。

 その愚かさに、今気づいたことこそが、何らかの掲示なのか。
 考えることに疲れ果て、シイナは目を閉じる。
 このまま眠ってしまえたら、きっと夢さえも見ずにぐっすり眠れるだろうに。
 それでも、拒絶した時の、フジオミの寂しげな表情は頭から消えてはくれない。
 感じる必要のない罪悪感に、今も苛まれている。
 シイナの心は、千々に乱れた。
 そしてまた、眠れない夜を過ごした。







< 15 / 62 >

この作品をシェア

pagetop