ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
「――」
大きく息をついて、ふと気づく。
あの夜のことを思い出したのに、いつも来るような嘔吐感がなかった。
目眩もしない。
それだけは、喜ぶべきなのか。
この変化は、フジオミの変化でもあるのだと、シイナは悟る。
そして、いかに自分がこれまで性行為の強制を嫌悪していたか、強制するフジオミを嫌悪していたかと言うことにも気づいた。
だからこそ、今日のフジオミの言動には、反感を覚えたのだ。
マナが去ってから、フジオミはシイナに対する強制を全てやめた。
強制をやめたはずの彼からの、強制に近い願い。
自分の仕事にまで口を出すなど、これまで無かったのに、何が彼にそれを言わしめたのか。
直前まで、何の会話をしていただろうと思い返して、シロウの話をしていたのだと気づく。特別なクローンであると、フジオミに話した。
そこで、シイナは奇妙な思いつきに眉を顰める。
まさか――『嫉妬』か。
「――」
気づいてから、シイナは呆れてしまった。
フジオミは、自分とシロウが二人きりでどうにかなるとでも思っていたのか。
自分がシロウを愛するとでも?
馬鹿げた思考にシイナは鼻で嗤う。
クローンを相手に恋愛感情が芽生えると、真剣に思っているのだろうか。
クローンには子孫を残すどころか、性欲さえありはしないのに。
全く以て理解することが出来ない。
それとも、それこそが愛なのか。
自分にはやはり、愛する心などないのだとシイナは自覚した。
自分はそのような嫉妬など感じることはない。
そして、安堵する。
愛など必要ない。
愛など、無意味なだけだ。
そんな錯覚が、人類を滅ぼしたのだ。
動物の生存本能を『愛』という幻想で打ち壊したために、今この時、自滅していくのだ。
愚かな人間達。
愚かな自分達。
その愚かさに、今気づいたことこそが、何らかの掲示なのか。
考えることに疲れ果て、シイナは目を閉じる。
このまま眠ってしまえたら、きっと夢さえも見ずにぐっすり眠れるだろうに。
それでも、拒絶した時の、フジオミの寂しげな表情は頭から消えてはくれない。
感じる必要のない罪悪感に、今も苛まれている。
シイナの心は、千々に乱れた。
そしてまた、眠れない夜を過ごした。