ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
1 眠れぬ夜
音もなく、壁面に埋め込まれてあるデジタル時計の表示が変わった。
それを横目で確認しながら、大きく寝返りをうって、彼女はこれが何度目のものかを考えていた。
「――」
眠れない夜が続いていた。
もう半年以上もだ。
微睡んでは悪夢にうなされるように飛び起き、或いは身体を痙攣させた衝撃で目覚める。
ならばいっそ眠らない方が楽なのかもしれない。
原因はわかっている。
だが、それにどう対応していいのかは、彼女にはわからなかった。
答えの出ない問いを何度も繰り返し、結局はあきらめて別のことを考えようと意識を拡散させ、それでもまた最初の問いへと思考は戻っていく。
そうしてそれは、窓代わりの壁面のスクリーンが時間に合わせて夜明けの薄闇を演出するまで続くのだ。
こんな夜は、いつもシイナはマナを思い出す。
つまり、毎日だ。
マナ――それはシイナが育てた、彼女の娘に等しい少女だった。
滅びの近い生き残りの人間と生殖能力を持たないクローンが取り残された絶望的なこの世界で、人類の未来を救うべく造られた唯一の女性体。
奇跡のような少女。
女が極端に産まれにくくなり、また、産まれても不妊の女性体の中で、彼女はクローンでありながらも強い血筋故に完全な生殖能力を持っていた。
彼女を母体として、凍結保存させた精子との人工授精により、子供を産ませようとしていたシイナにとって、自分の命より大事な少女だった。
だが、マナは去ってしまった。
実験体のユウとともに。
彼女が選んだ愛する者とともに。
人類を滅亡から救うという最後の希望を捨てて。
シイナには今もって理解することができない。
崇高な使命を、愛という個人的な感情で放棄した養い子の心情を。
当然の義務のように、生まれたときから決められていたように自然なその存在理由を、なぜマナは捨て去ることができたのだろう。
それどころか、なぜ、疑問を持ち、思考し、自らの判断で選択し、拒絶したのか。
そんな機会さえ、与えなかったのに。
そうして、ここから去っていこうとする彼女の言葉が頭を離れない。
――わかって、博士。あたしユウが好きなの。彼を愛してるの。ユウでなきゃ、だめなの。
愛するということ。
それは、一体どういうことなのか。
シイナはずっとそれを考えていた。
誰かを大事だと思うこと。
愛しいと思うこと。
だが、それだけではないことも知っている。
たくさんの愛があり、表現も、強さも、形も、変化も、それぞれだ。
どれもそれは優しくありながら激しく、穏やかでありながら深い。
そして自分には、それがない。
欠陥品である自分にあるのは、怒りや憎しみといった負の感情だけだ。
愛などという概念がこの世界から失われて、どれほど永い時間が経ったのか。
特に、生殖能力が著しく衰え、生殖行為が義務と使命となったとき、彼ら人類は個人的な愛情を捨てた。
自然界の動物のように、繁殖のための行為と割り切った。
一妻多夫制を取り入れ、子孫を残せる雌に群がる獣のように生殖行為を繰り返した。
それでも。
どんなにあがいても。
未来は変わらなかった。
滅びは予定調和だったのだ。
ならば、なぜもっと早く、諦めてくれなかったのだろうと、シイナは今も思う。
もっと早く、潔く諦めてくれていたなら、自分は存在しなくても良かった。
無用に傷つかなくても良かった。
世界を呪わずにすんだ。
この呪われた世界で、死ぬまでの間、こうして苦しみ続けることもなかったのに――