ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~

8 気遣い


 精神的ダメージが大きかったせいか、シイナの熱は何日も続いた。
 最初のような高熱ではないが、微熱が下がらず、鈍い頭痛はおさまらない。
 日常的に眠れなかった疲労の上に、暗闇を恐れ、明かりを消すことさえできなくなった。
 そんな状態で、仕事に行くどころではなくなった。
 クローンと同じ空間にいるのが、想像でも耐えられなかった。
 医局のクローンでも駄目だった。
 フジオミが診てもらうかと促しても頑なに拒否した。
 そこで、フジオミが手配して、体調が戻るまで研究区はフジオミの管轄下に入った。
 端末をシイナの部屋に持ち込んで、リビングで報告を受けながら、フジオミはシイナの面倒を見る。
 居住区内のクローンを近づけることなく、徹底してシイナを隔離した。
 シイナは逆らわなかった。
 寧ろそのフジオミの采配に素直に従った。
 フジオミが傍にいるなら、もうあんな恐ろしいことは起こらない。
 それだけで安堵した。



「シイナ、薬は?」
 食事のトレイを片付けに部屋へ入ってきたフジオミは、薬の包みが開けられていないのを見て、そう問うた。
「飲みたくないの。効かないし、返って気分が悪くなるから」
「まだ、眠れないのかい?」
「――深く眠れないだけ。横になっているから大丈夫よ」
 もの言いたげにフジオミはシイナを見ていたが、結局何も言わずにトレイを片付けに行った。
 しばらくして、もう一度寝室のドアがノックされる。
「フジオミ?」
 ドアが開くと、フジオミはトレイにカップを載せて入ってきた。
「薬が嫌ならこれを。安眠効果があるらしいから」
 手渡されたカップからはほのかに湯気が出ていた。
「これ、お茶?」
「ああ、ハーブティーだよ。カモミール、だったかな」
 いつもコーヒーばかり飲んでいたシイナには、あまり馴染みがないものだったが、ゆっくりと一口飲んだ。
 コーヒーとは違う、ハーブ特有の独特の味がしたが嫌ではなかった。
 熱すぎず、丁度良く飲める温度も良かった。
「美味しいわ……」
 それを聞いて、フジオミが笑う。
「じゃあ、今度からは食後に飲めるよう準備するよ」
 温かさが胸の奥に染み渡るのは、ハーブティーのせいだけではないような気がした。
 フジオミの気遣いを、今なら素直に受け入れられる。
 それが、不思議だった。

 たった、これだけのことが、なぜ。

 どんなに考えても、シイナにはわからなかった。
 鈍い頭痛のせいだと、思いたかった。




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