ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~

 実際に悲鳴を上げる寸前、シイナは目を開けた。
「……」
 見慣れた天上が見える。
 明かりは点いたままだ。
 身体を起こすと、空調がきいているはずなのに寒かった。
 静まりかえった部屋には、先ほどまでの悪夢の続きは何もない。
 いつもの、いつも通りの自分の寝室だ。
 それなのに、シイナは恐怖に身を竦ませていた。
 時計を見ると、日付は変わり、すでに夜明け間近となっていた。
 ようやく眠れたと思ったら、おぞましい夢。
 眠っている方が体力を消耗しているなんて、馬鹿げている。

 いつまで、こんな夜が続くのか。

「……うぅっ……」

 堪えきれずに、嗚咽が漏れる。
 怖い。
 恐怖を、克服できない。
 いとも容易く、自分が壊れていく。
 涙が視界を滲ませた。

「シイナ?」

 ドアの開く音に目を向ければ、そこにはフジオミの姿がぼんやり映る。
「泣いてるのか――」
 驚いたような声とともに近づいてくるフジオミに、シイナは慌てて涙を拭う。
 脅えていた自分を悟られたくなかった。
 だが、フジオミはベッドのすぐ傍まで来て、シイナの脅えように気づく。
 シイナを威圧しないようベッドのすぐ脇に跪いて、右手をそっとベッドの上に置いた。
 そのまま、シイナを見つめて静かに問う。
「手に、触れてもいいかい?」
 それ以上何も言わず、フジオミはただ待った。
 シイナは躊躇いながらも頷く。
 フジオミの手が、すくうようにシイナの指をとらえる。
「冷たくなっている」
 それから、左手を重ねて宥めるようにさすっていく。
 冷え切っていた手に、フジオミの温もりは心地よかった。
 このフジオミは違う。
 もうシイナを傷つけない。
 それなのに、どうしてあんな夢を見てしまったのか。
 自分は、おかしくなってしまったのか。
 シイナはフジオミが優しければ優しいほど、安堵する反面混乱する。
 堪えきれない涙がぽつんと落ちた。
「シイナ、お願いだ。何があったのか話してくれ」
 シイナの手を優しくとらえたままフジオミが言う。
 その眼差しは労りに満ちていた。
「君がおかしくなったのは、あの日――僕の目の前で倒れてからだ。何かあったんだろう?」
 シイナは迷っていた。
 フジオミを、信じてもいいのか。
 勿論、自分を襲ったのがフジオミでないのはわかっている。
 だが、怖かった。
 フジオミも男なのだ。
 そんな彼に、自分の恐怖が理解できるのか。
 彼ら男性体にとっては、女は生殖能力がなければ価値がないのだ。
 未遂だからとなかったことにされたら。
 再びそんな扱いを受けたら、耐えられない。


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