ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
17 諍い
次の日のフジオミはいつも通りだった。
まるで、シイナの提案がなかったかのように。
内心気が楽だった。
いつも通りの気遣い。
いつも通りの笑顔。
落ち着いて考えてみれば、フジオミが提案を断ってくれて良かったのだ。
あれは熱のせいで一時的に感じたものだ。
そう思い込むことで、シイナも気持ちを切り替えた。
自分の日常を取り戻さなくては。
たまっていた仕事を片付けるべく、シイナは食事を済ませ、フジオミとともに研究区へ向かう。
車椅子に頼り切るのも嫌だったので、研究区のエレベーターを出てから仕事部屋まではゆっくりと歩いた。
自分の端末は車椅子に置き、フジオミが運んでくれた。
仕事部屋に入って椅子に座るとほっとした。
疲れてはいるが、もともと体力がないわけではない。
少しずつ体調はもとに戻っていくはずだ。
フジオミが端末を机の上に置いてくれる。
「ありがとう」
シイナの言葉に、フジオミが笑い返す。
シイナも微笑み返すと、端末を起動する。
メールをチェックして、返信出来るものには返信し、実際に指示を出すものに関しては次々と区内通信で捌いていった。
最後のメールはシロウからのものだった。
件名は当たり障りない報告と同じものだったが、内容は短かった。
『提案についての検討結果をお知らせ願います。』
何と返答すべきか迷っていると、扉が開いて入ってきたのは当のシロウだった。
シロウはフジオミに一礼すると真っ直ぐシイナの執務机に向かってきた。
心の準備が出来ていなかったシイナは表情にこそ出さなかったが内心狼狽えていた。
「すみません。他の者から博士の指示を受けたと聞いたものですから伺いました」
「――そう」
「こちらが報告書です」
渡された報告書に目を通すが、特に急ぎのものとは思えない。
目を通し、二、三、口頭で確認した後、シイナはサインして返す。
「ありがとうございました――例の件はどうなりましたか」
最後の問いが、一番聞きたかった事だろう。
シイナはありのままに答えた。
「後一人、許可を貰えばいいだけよ」
「わかりました。こちらでは全ての準備が整っています」
シロウの表情には静かな期待が見て取れた。
マナがいた頃の自分のように。
シロウの眼差しで、シイナは大切なことを思い出した。
自分達は、人類の滅亡を食い止めなければならないのだ。
もしもこの実験が成功すれば、それは免れる。
少なくとも、自分の代では。
最後の責任をとるのは、自分とフジオミだけでは、あまりにも重すぎる。
義務の遂行。
これこそが、自分の生きる意味なのではないか。
「――明日までには、許可を貰うわ」
我知らず、呟いていた。
「はい。では、失礼します」
去っていくシロウを目で追って、フジオミがこちらを見ているのに気づいた。
「――どうしたの?」
気まずさからか、声をかけたのは自分からだった。
「いや、何でもない」
フジオミは短くそう言って自分の端末に視線を戻した。
本当は何か言いたかったのではないか――そう感じたのは気のせいか。
どこかぎこちなさを残したまま、二人は互いの仕事を片付けた。
まるで、シイナの提案がなかったかのように。
内心気が楽だった。
いつも通りの気遣い。
いつも通りの笑顔。
落ち着いて考えてみれば、フジオミが提案を断ってくれて良かったのだ。
あれは熱のせいで一時的に感じたものだ。
そう思い込むことで、シイナも気持ちを切り替えた。
自分の日常を取り戻さなくては。
たまっていた仕事を片付けるべく、シイナは食事を済ませ、フジオミとともに研究区へ向かう。
車椅子に頼り切るのも嫌だったので、研究区のエレベーターを出てから仕事部屋まではゆっくりと歩いた。
自分の端末は車椅子に置き、フジオミが運んでくれた。
仕事部屋に入って椅子に座るとほっとした。
疲れてはいるが、もともと体力がないわけではない。
少しずつ体調はもとに戻っていくはずだ。
フジオミが端末を机の上に置いてくれる。
「ありがとう」
シイナの言葉に、フジオミが笑い返す。
シイナも微笑み返すと、端末を起動する。
メールをチェックして、返信出来るものには返信し、実際に指示を出すものに関しては次々と区内通信で捌いていった。
最後のメールはシロウからのものだった。
件名は当たり障りない報告と同じものだったが、内容は短かった。
『提案についての検討結果をお知らせ願います。』
何と返答すべきか迷っていると、扉が開いて入ってきたのは当のシロウだった。
シロウはフジオミに一礼すると真っ直ぐシイナの執務机に向かってきた。
心の準備が出来ていなかったシイナは表情にこそ出さなかったが内心狼狽えていた。
「すみません。他の者から博士の指示を受けたと聞いたものですから伺いました」
「――そう」
「こちらが報告書です」
渡された報告書に目を通すが、特に急ぎのものとは思えない。
目を通し、二、三、口頭で確認した後、シイナはサインして返す。
「ありがとうございました――例の件はどうなりましたか」
最後の問いが、一番聞きたかった事だろう。
シイナはありのままに答えた。
「後一人、許可を貰えばいいだけよ」
「わかりました。こちらでは全ての準備が整っています」
シロウの表情には静かな期待が見て取れた。
マナがいた頃の自分のように。
シロウの眼差しで、シイナは大切なことを思い出した。
自分達は、人類の滅亡を食い止めなければならないのだ。
もしもこの実験が成功すれば、それは免れる。
少なくとも、自分の代では。
最後の責任をとるのは、自分とフジオミだけでは、あまりにも重すぎる。
義務の遂行。
これこそが、自分の生きる意味なのではないか。
「――明日までには、許可を貰うわ」
我知らず、呟いていた。
「はい。では、失礼します」
去っていくシロウを目で追って、フジオミがこちらを見ているのに気づいた。
「――どうしたの?」
気まずさからか、声をかけたのは自分からだった。
「いや、何でもない」
フジオミは短くそう言って自分の端末に視線を戻した。
本当は何か言いたかったのではないか――そう感じたのは気のせいか。
どこかぎこちなさを残したまま、二人は互いの仕事を片付けた。