ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
カタオカの部屋の前で、シイナは暫し立ちつくしていた。
なぜ、ここへ来てしまったのだろう。
どんなにわめいて理不尽なことを言っても、彼なら黙って受けとめてくれると知っているからか。
フジオミがいない今、頼れるのは彼だけだということも、シイナにはわかっている。
冷静に、感情に流されることなく話をしなければならなかった。
答えの出ない問いを一人で考えることに疲れていた。
かといって、カタオカに答えを出してもらおうと思ってはいない。
ただ、聞いてほしかったのだ。
そして、自分の気づかない点、カタオカが見る自分とフジオミの関係を、知りたかった。
客観的に分析できるなら、何か違う打開策が立てられるのではないかとかすかな期待を抱いていたのである。
思い切って部屋に入ると、この前のことを気にしたふうもなく、むしろシイナの再来を喜ぶようなカタオカに、ほんの少し心が軽くなる。
受け入れられたことに安堵し、シイナは語り出した。
「愛せないのなら、はっきりとそう告げるべきだ」
「カタオカ……」
「何を恐れているんだい? 彼を傷つけることかい? だが、君の曖昧な態度が、一層彼を傷つける事態を招くかもしれない」
「わからないんです――愛していなくても、彼を拒絶することはできない。
それは義務だからです。その義務から、逃れることはできません。
自由にしてもいいといいますが、私にはそれは理解できないのです。
本来、私達女性に、自由などなかったではないですか。
そのように、あなたたちが、この世界が、私を育てたのではないですか。
私がマナと同じ少女であったなら、それを学ぶことも理解することもできたかもしれません。
ですが、すでに、私は理解することはできないところまで来てしまったのです。
あなたたちは男だから、真の意味で私達女性を理解することはできないでしょう。私達女性が、真の意味で男性を理解することが出来ないように」
だが、カタオカはゆっくり首を振る。
「シイナ。誰も、誰かを完全に理解できるなんて事は、有り得ないんだよ。そんなことは、誰にも出来ない。ただ、寄り添うだけだ。相手の心に出来る限り近づくために」
「それが、愛ですか?」
「ああ。それも、愛だ」
フジオミの心に近づく。
しかし、それは途方もない難題のように彼女には思えた。
「私のような欠けた人間にでも優しくしてくれる人を、傷つけたくないと思うのは、ただの弱さですか」
「そこに愛情がなければ、いつか君達は不幸になる」
カタオカは小さく息をついた。
「今はまだいい。フジオミは、君を愛するだけで精一杯だから。
だが、彼もいつか気づくだろう。
決して愛した分だけ愛されないことの辛さに。
同じ想いを返されぬ虚しさに。
君がこれから先、彼を愛せるというのならこんな考えは私の取り越し苦労ですむ。
だが、彼を愛せないことに君が苦痛を感じているのなら、優先すべきなのは君自身の気持ちなんだよ」
「――」
「シイナ、我々は君を大事に想っている。君を傷つけたが、それでも、今、我々は君をもう傷つけようとは思わないし、幸せになってほしいと思っている。だから、君は君の幸せのために、自分自身で決断していいんだよ」
「私の……幸せ?」
誰のことも考えなくていい。
自分の気持ちを優先していい。
それはとても、難しいことだ。
自分の本当の気持ちさえわからないのに。