ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
「博士。新しい報告です」
研究室に入ってきたクローンに視線を向けることなく、
「そこに置いていって。後で見るわ」
そう告げた。
ようやく書類に集中出来たところだった。
この流れを乱したくなかった。
「失礼ですが、説明した方が早いかと」
書類を机の横に置いて動こうとしないクローンに、訝しげにシイナは顔を上げた。
自分の命令に従わず、尚かつ意見するようなクローンがいることに気を取られた。
「説明できるの?」
「はい。僕の担当ですから」
受け答えさえ淀みない。
作業用クローンが見せるどこか脅えた態度もない。
シイナは先ほどまで読んでいた書類を置いた。
すかさず手渡される書類を受け取る。
「あなた――」
「シロウ=オオキです」
「シロウ――」
その名をどこかで聞いたことがあると、シイナは暫し考え、納得した。
作業用クローンの中で唯一知能低下の起こらない、オリジナルの知能指数が非常に高いクローン体の名だ。
背の高い、穏やかな雰囲気を持ったクローンだった。
整った顔立ちの三十前後だろう容貌。
クローニングの段階で起こる知能の低下を感じさせない理知的な瞳がこちらを見ている。
白衣の左胸の所属を表すプレートを見ると、年齢は三十二歳と書かれていた。
耐久年数を超えていることに驚く。
きっと彼も、そう長くはないだろう。
クローン体の寿命は、人間よりも短い。
五十年を生きる人に対し、彼等は三十年前後。
ユカの情報を全て写し取って、ユカ自身に産ませたマナでも、例外ではない。
だから、急いだのだ。
マナが、大人になって、フジオミとの子供を生んでくれることを。
たくさんの子供を産んで、未来への希望を繋いでくれることを。
それら全てが、今となっては無駄になってしまったが。
「シロウ、あなたのオリジナルは、とても優秀だったのね。何度クローニングされてもその頭脳に損傷が起こらない。あなたの頭脳は私達の研究にとても貢献しています。ありがとう」
かけられた言葉に、今度はシロウの方が暫し考えるような目でシイナを見返し、
「――いいえ。あなたは、僕が思っていたのとは別人のようだ」
そう感慨深げに答えた。
クローンに特有の怯えと動揺は、シロウからは全く感じられなかった。
それがかえってシイナには好感が持てた。
「気を悪くなさらないでください。クローンには容赦のない人だと伺っていたものですから」
率直なシロウの言葉に、シイナは微笑った。
「私は能力が高ければ人であるかクローンであるかにはこだわらないことにしているのよ。私も、偉そうなことを言える立場ではないしね」
シイナの厳しさは、自分でも自覚している。
彼女は失敗を許さない。
とくに、些細なミスであればあるほど。
できることをしない存在を、彼女は嫌いだった。
「私が求めるのは有能な人間よ。役に立たないのなら要らない。それだけよ」
「ならば、私は必要ですか」
「ええ。あなたは有能だわ。その頭脳が我々人類に貢献しているかぎり、あなたは必要な存在よ」
「わかりました。では、研究の報告を」
切り替えの早い彼を、シイナは好ましく思った。