ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~
途中医局によってマスクとゴム手袋を準備し、シイナはシロウと共にドーム中央のエレベータを使って二階から六階の資料倉庫へと向かった。
資料倉庫は入り口こそ六階にあるが、研究区のその階全てが倉庫として使われているため、とても広かった。
しかも、天井も高く、中はずらりと並んだ対面式の棚の他に、両端に中二階へと上がる階段も備え付けられている。
初めて倉庫の中に入ったシロウは、その資料の膨大さに暫し唖然としていた。
「これら、全てですか――」
「そうよ。中二階の奥が一番古い年代のものよ。入り口に近いものがこの中では一番新しいわ。それ以降のものは全てデータ化してメインコンピュータに取り込んでいるから」
「年代の近いものからスキャニングしてデータ化することをお勧めします。それなら、クローンにもできる作業です」
「いいアイディアだわ。でも、それは後でよ。今は目的の資料を探さないと」
「ええ。分担した方が良さそうです。博士はリストの上段からお願いします。僕は下段から探していきます」
「ええ」
マスクと手袋をつけて、シイナは左端の階段を上った。
階段の上には移動用カートが置かれ、階段のすぐ脇には業務用の昇降機もついていた。
資料の持ち運びにはこれを使うのだ。
シイナは移動用カートを押して、一番奥へ向かう。
膨大な資料ではあるが、一応年代の古い順から奥の棚に分類されている。
ファイリングされているものもあれば、無造作にクリップで留めたままのものもある。
リストをもとに、シイナは目的の資料を探す。
ファイルに項目が書いてあるのは背表紙だけでわかるが、中には何も書いていないファイルもあり、そんなときは中を開いて確認しなければならない。
一番上の棚から始まっているため、備え付けの梯子を使って登っては、少しずつ位置を変えながら資料を探す。
根気の要る作業だが、シイナには苦にならなかった。
クローニングに関する技術は、シイナにとっても専門分野の内だ。
以前もここの棚からクローニングに関する資料を探し出し、読みふけったのだ。
リストにある年代から、次々と目的の資料を見つけ出し、カートに積む。
時折、下からも紙を捲る音やファイルの抜き差しされる音、キャスターのついた梯子が動く音が聞こえる。
作業に没頭していたシイナは、階段を上がる足音に気づく。
「シロウ?」
「博士、下は終わりました。僕はこちらから逆に探します」
棚の端から顔を出したシイナは、右端の階段のすぐ脇の書棚からファイルを抜き取るシロウを見て驚いた。
「あなた、こんなに早く下を終わらせたの?」
「これは、僕の専門分野です。博士より遅かったら立つ瀬がありません」
短く言い切り、シロウはまるで、どこに何があるかわかっているかのようにファイルを抜き取り、中身を確認し、必要なものは取り分け、不要なものは戻していく。
その仕事の速さに、シイナは感心した。
やはり、知能の高さは作業量の向上にもなるのだと思い知る。
許されてはいないが、同時にシロウのクローン体を量産出来るのなら、もっと研究の効率も上がるのではないだろうか。
クローニングに関する規制の一つに、同一のクローンを同世代内で存在させることがあってはならないというものがある。
生命の倫理に対する最低限の礼儀とされているが、クローンを産み出すことこそが、生命の倫理からすでに外れているのに、都合のいい線引きにシイナはいつも可笑しさを禁じ得ない。
誰のための、何のための規制なのだろう。
今更クローンを思いやって、彼らがそれを喜ぶとでも――?
そのような感情さえ、持てなくしたのは、我々人間であるのに。
棚の奥へと移動するシロウに、シイナは小さく頭を振ってその考えを追い払う。
そして、自分も残された資料を探す作業を再開した。