天堂と十六夜


数時間の安産だった


百鬼たちはあんな状態に陥りながらも産まれてきた桜李を『奇跡の子』と騒いだ。そして瞬く間に噂が広まり日本中の妖怪たちも驚き喜んだ



雁蔵と鶴は一週間、十六夜と子の容態確認のため本家に滞在して帰って行った


十六夜と天堂は盥に張った湯で洗って、肌着を着せて抱っこしていた



「可愛いねぇ……」


天堂が十六夜が抱っこしている子の頭を撫でていると子は小さい両手で十六夜の胸をしきりに触っている




「お乳が欲しいの?」


「そうじゃねぇか?そういやもう昼か…」


十六夜は着流しを肌蹴させて胸を近づけると勢いよく吸い始めた



「桜李は本当によく飲むな…」


桜李


それが宝の名前だった


この名前は、十六夜は桜が好きで、また庭にある立派な桜の大樹を見て十六夜が桜の一文字を入れたい、と言ったためである


『李』は天堂の好きな果物が李だったためつけたもの


当然十六夜はその理由を聞いたときにぽかんとしていたが、後から考えると季節のもので桜と李は何となく合っていたためよしとした


二人の好きなものが入った名前なら喜ぶだろう、と雁蔵と鶴も言っていた

「…ぷっ」


背中をとんとんと叩いてげっぷさせ、腕を揺らしてあやしていると


「よぉ、邪魔するぞ」


自室の障子を勝手に開けて入ってきた獅蛇


「またお前は勝手に…」


天堂は呆れているが十六夜は久し振りの獅蛇と会えて嬉しいようだ






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