背中の彼
絵画スクールのようなその教室は、彼と向かい合ってたくさんのキャンバスが並び、OLさんらしき女性がキャンバスと描くものを交互に見つめる。そこだけが静かに時間が流れていた。


いつも洗いざらしの白いシャツをきた背中のその人は、首がすっと伸び、黒髪にはゆるいウエーブがかかっていた。



時々生徒のあいだを歩くその人は、残念なことにあまりこちらを向かない。
いつも後ろ姿だけ。


そんな彼を想像するのがあいつを待つ間の私の楽しみ。



そうね・・・・・目は切れ長で、鼻は高くはないけどスッと通っていて、唇は薄く、いつも微笑んでいるように口角が少し上がっている。


笑うとクシャっと笑いジワが出てとても愛らしい。




美大を出た彼は画家の仕事の傍らで週何日かを絵画教室で教えている。
3年付き合った彼女がいたけど、多忙な彼女とすれ違い、ついこの間別れた。


家には猫が1匹同居していて、彼女との暮らしはもう10年にもなる。そう、彼女っていうのは猫のこと。彼女の好きな場所は、彼の仕事部屋のパレットや絵の具が散らばったテーブルの上。彼女の指定席の一角だけが片付いている。



彼はひとり暮らしが長く、炊事洗濯も器用にこなす。


得意料理はイタリアン。ベランダで育てたバジルを入れたパスタがすごく美味しい。ワインが好きで、どちらかというと白が好き。お酒はあまり強い方ではなく、飲むとほどよく頬が染まり、酔ってくると目を潤ませ頬杖を付き口数が少なくなる。


そのぼんやりとした目で見つめられると、ベタな表現だけど溶けてしまいそうになる。



そして言うんだ「今日泊まってく?」って。



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