白銀の女神 紅の王(番外編)
しかし、これでひるむフェルトではない。
「婚儀に行ってもどうせ主役が不在だったと聞いたぞ」
これにギクリとしたのは私だった。
「す、すみません。それは私のせいなんです」
「婚儀が取りやめになったと世間は騒いでおるがよいのか?」
そう話すフェルトの表情から"騒いでいる"というのは良い意味ではないことが伝わってきた。
「ギルティスといざこざがあったなどと、国民に要らぬ不安を与えたくはなかったからな。いずれ表向きの婚儀も開く」
「早ようせんと思わぬ災に見舞われるぞ」
「あぁ、分かっている」
意味深く告げた言葉にシルバは短く、しかししっかりと応えた。
フェルトは堅い表情をして頷いたシルバに満足したのか、フッと表情を緩め、「ところで…」と口を開く。
「お前さん、ノース地区から大事な会議を抜けだして来たと聞いたがよいのか?」
「会議は一週間延期になった」
一週間も延期になったのか、と頭の中で繰り返しているとふと明後日の予定が頭に浮かんだ。
「明後日にはエストに行かなきゃいけないんじゃないの?」
「エストに行くのか?」
驚いたフェルトは同じことをシルバに問うと、シルバは「あぁ」と嫌そうに応える。