白銀の女神 紅の王(番外編)
「エストの王子の婚儀に招かれている」
シルバの言うとおりもともとの予定では明後日は公務でエストに行くことになっていた。
王子とは依然アースにきたジュゼット姫の兄にあたる人だ。
今回の公務に私も呼ばれたのは王子が妹ジュゼットの非礼を詫びたいからということでもあった。
「エストとは以前ひと悶着あったからな、行かないわけにはいかない」
"ひと悶着"という表現をしたシルバにフェルトが訝しげに眉をしかめた。
「す、すみません…それも私のせいです」
褒められたばかりだというのにこうも粗が出てきてはフェルトの私に対する評価がまた下がってしまう。
しかし、シルバは内心ヒヤヒヤしている私を面白がっていた。
「そうだなお前がもっと早く素直になっていれば俺もあんな女に迫られることもなかった」
「や、やっぱり迫られたんだ」
ニヤリと嫌みな笑みを浮かべたシルバが口にした言葉に、風邪を引いていることも忘れて勢いよく起き上がり、詰め寄った。
しかし、やはり突然起きあがったからかクラリと目眩がし、そのままシルバにもたれかかった。
それに焦ったシルバはすぐに私の背に手を回し、支えてくれる。
「病み上がりでそう声を上げるな。また熱が上がるぞ」
先ほどとは打って変わって心配そうにささやかれる優しい声。
真摯な紅の瞳が私を映し、単純な私の心臓はドキッと高鳴った。
だ、だめ…たまにしか見せてくれない笑顔になんか誤魔化されないんだから。