白銀の女神 紅の王(番外編)
風邪が治ったら覚悟しておけ
バンッとけたたましく扉が開き、入ってきたのはウィルだった。
いつもの冷静沈着なウィルが血相を変えて入ってきたことで、なぜウィルがここにいるのかは頭からすっぽりと抜けた。
「シルバ!あなたどうやったんですか?」
「何のことだ」
入ってくるなり興奮気味にそういったウィルに少し驚きつつ応える。
同じく何事かと驚いて起きあがったエレナに上着を着せ、ウィルにそう問うと、先ほど以上に興奮したウィルが詰め寄る。
「何のことだじゃないですよ!ノース地区の土地売却の件ですよ!」
「だから何のことだと言っている」
ノース地区での会議は一週間延期になったはずで、まだその期日はきていない。
ましてや会議の延期を知らされたその日からノース地区を出た俺に土地売却の件で何ができるのだろうか。
「取りあえず息を整えろ。落ち着いて話せ」
窘めるようにそういうと、ウィルはようやく辺りを確認するほどの余裕ができたようで、驚いたフェルトやエレナの顔を順に見て頬を赤らめる。
常に冷静沈着なウィルにとって、周りの状況が見えないほど取り乱すことは失態とも呼べるべき恥なのだ。
ウィルは俯いてわざとらしくコホコホと咳払いをした後、言われたとおり深呼吸を1、2回繰り返す。
そして、気まずそうに顔を上げて「驚かせてすみません」と口にする。