白銀の女神 紅の王(番外編)
「着きました」
抑揚のない声に視線を上げると、執事が突き当たりの部屋の前に立ってこちらを振り返る。
しかしその視線が合わされることはなく、濃紺の絨毯が引かれた床に向かって執事が口を開く。
「皆様は既にお集まりです。どうぞ中へ」
浅く腰を折り、指先まで皺の刻んだ手で部屋に促す執事。
促されるままにウィルが扉の前に立ち、コンコンと扉を叩いた。
「失礼いたします」
両開きの重そうな扉を開き、部屋の中へ入る。
奥行きのある部屋には同じく部屋の奥まである長テーブルが設えてあり、その長テーブルには難しい顔をした貴族たちが座っていた。
そしてその一番奥、窓際に座る男だけが笑みを見せる。
「ようこそいらっしゃいました、陛下。私ノース地区の貴族を束ねているハルフ・グリッドと申します。爵位は侯爵、地権の譲渡を反対する者の一人です」
ハルフという侯爵のことは既にウィルから聞いていた。