白銀の女神 紅の王(番外編)
「シルバ・アルスターだ」
表情こそ柔和だが、俺たちに向けられる言葉は容赦ない。
「この地へ来訪したのは他でもない、地権の譲渡についての件だ」
何の前触れもなく本題に入ったことにその場の空気がどよめく。
貴族たちは皆隣に座る者とヒソヒソとなにやら話し始め、入ってきたときよりも鋭い視線が降り注ぐ。
「ッ…シルバいきなりその話は…」
「こういうタイプの人間は世辞や世間話を並べようと傾きはしない。こちらとしても無駄なことに時間を割いている余裕もないので本題から先に入らせてもらった」
淡々と本音を述べれば、グリッドはククッと笑みをこぼした。
「正直なお人だ」
しかしそれも一瞬のことで、笑みは一瞬で消えた。
「尻尾どころか顔も出さないあの男よりはましと言えるが、我々の意思は変わりませんな」
「地権を譲るつもりはないと?」
「もちろんでございます。あれは我々が何年もかけて築いた土地。我々が求めたときには応じず、必要になったからといって声をかけるとはいささか都合が良すぎはしませんか?」
まぁそうだろうな。
グリッドの言葉も一理あると思ったが、ウィルは違った。
「しかし、ノース地区の人員では限りがあります。それに開拓もあまり進んでいないと聞いていますよ」
この件については半年前から携わっているウィルとしてはグリッドの言葉にはいそうですかと頷いて帰るわけにはいかないのだ。