白銀の女神 紅の王(番外編)
「俺には会議に出たくないが為の言い訳にされたような気がしてならないがな」
最後の書類に署名をしてペンを置く俺にウィルは「やっぱりそうですよね」と苦渋の表情を浮かべて答えた。
「どちらにせよ侯爵が一週間は帰らないと言って出て行ったようですし、その間は会議もできませんね」
ウィルの言うとおり、このノース地区においてはグリッド侯爵に全てが委ねられているため、その本人なくしてはいくら会議を重ねても進まない。
一週間か…期間は開くがお互いに息を抜くには良いのかもしれない。
「僕はこのままここに残ろうと思いますが、シルバはどうします?」
「俺は一度城に戻る」
「分かりました。エレナさんが帰っていると良いですね」
ウィルは俺の答えが分かっていたのか、止めることなく笑顔でそう言った。
この4日間の会議の間、頭を占めていたのはもちろんノース地区の開拓についてのことだ。
しかし同時にエレナのことも気になっていた。
サウス地区に無事入り、フェルトのところに世話になっているという伝令はあったものの、知らせはそれきりで途絶えている。
もう4日が経ったんだぞ?なぜ何の報告もないんだ。
そもそもエレナの風邪は治ったのか?
こうして頭の中で考えを巡らせては苛立ちを募らせていた。
伝令がないのは「サウス地区についたら連絡をするように」というウィルの命を馬鹿正直に守っているのか、はたまた既にエレナの風邪が治り、城に戻っているのかのどちらかだろう。
どちらにせよ、城に帰れば分かることだ。
そう自分に言い聞かせ、焦る想いのままにノース地区を出た。