白銀の女神 紅の王(番外編)
「いッ……!何しやがる!」
パァンッ…――――
男は私の服にかけていた手を反射的に離し、高々と上げられた手を私の頬に振り下ろした。
「エレナ!ちょっと、あんた!相手は女の子よ!」
ノーラが声を上げるが、もう私の耳にはその声すら耳に届いていなかった。
喉の奥に張り付いたように言葉が出ず、体を支配する恐怖心に身を震わせる。
じんじんと頬に伝わる痛みは忌まわしい過去の記憶を甦らせるのには十分だった。
雨の降る曇天は薄暗い地下室を思い起こさせ、ぶたれた頬は躾と称して体に覚え込まされた暴力を喚起させる。
とうに克服したと思っていたのに、体に残っていた記憶はまだ私の奥底に眠っていた。
「やっと大人しくなったか」
体を小刻みに震わせ、自分の体を抱く私に男は満足げに笑う。
そして、何を思ったのか男は逸らしていた私の顔を自分の方へ向かせる。
「お前髪だけじゃなく瞳の色まで銀色なんだな」
その言葉に見張っていた男たちも私の顔を覗きこみ「本当だ」と呟き、驚いた表情をする。
「やば…妃をヤってるみてーで興奮してきた」
「でもよ、そいつが本当の妃だったらやばいな」
私を組み敷く男は一瞬訝しげな表情をしたが、意図を察すると鼻で笑った。
「大丈夫だろ、寵姫といっても後宮に一人しか女を迎えてないから国王に愛されていると言われてるが、実際はまだ結婚もしてないと聞いたぜ」
意識の端で男たちの言葉に反応し、体が違う意味でビクリと震える。
もう六日間もシルバに会っていないからか、気持ちは弱くなっていた。