白銀の女神 紅の王(番外編)
彼のこんなに冷たい声は久しぶりに聞いたかもしれない。
ノース地区にいるはずの彼がなんでここにいるのかなんて頭になかった。
そればかりか、私の頭の中は未だあの忌まわしい過去で支配されていて、馬乗りになっていた男が立ち上がったというのに動けないでいた。
立ち上がった男の腰にさげていた剣をもう一方の手で抜き、傍観していた男たちに向ける。
「な、なんだお前」
一瞬にしてこの場の雰囲気を変えた男に焦ったような声が向けられる。
しかし、男は問いかけに答えることなく、仰向けで横たわったままの私を見下ろした。
「エレナ」
たった一言、ただ名前を呼ばれただけで私をこの世界に引き戻す。
やっぱり貴方は私の光だった―――