男なら♪
「そうか、そっちね。ちょっと勘違いしちゃったよ」

 と、道着のおじさんは平然としていた。

「それで……強くなりたいんですけど……」

 佐奈田は少し不安になった。

「私の精神を学べば立派な格闘家になれる」

「別に格闘家にならなくても明日までに強くなれればいいです」

「明日?」

「そうです。だって無料なのは一日だけなので今日中になんとか強く……」

「そうとう難しいことを言うな。でも男なら道場のとっておきを使えばなんとかなるだろ!」

「よろしくおねがいします」

 と、佐奈田は頭を下げた。

「よーし、やるぞ。で、私のことは師範と呼びなさい」

「はい、師範」

 と、佐奈田は言って、周囲の壁を見ると、

『男なら』『根性』『格闘家』と半紙に下手くそな文字で書いたものが貼ってあった。

 師範は外に行き、ラジカセを持って戻ってきた。

「準備体操ですか?」

「違う、まずは正座してこの曲をじっくり聴きたまえ」
< 9 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop