鏡の国のソナタ
裏門の門柱の陰から通用口を伺うと、出てきたのは白衣姿の九嵐と四年生の田中だ。

素奈多の胸はドキドキと高鳴った。

九嵐と田中は、肩を並べて素奈多の潜む門のほうまで歩いてくる。

「ドナーの培養はどうなっている?」

憧れの九嵐先輩の声が聞こえた。

相変わらず、柔らかくて落ち着いた、胸の奥に響く声だ。

「十二ロットのうち、三つが発生しています」

後輩の田中が答えた。

「ふうん。普通の数値だな。とすると……」

考え込む九嵐も素敵だった。

素奈多は門柱の陰でひとり幸せに浸り込んだ。

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