鏡の国のソナタ
「佐藤さん、期限切れで廃棄した石井ケミカルのカプセルは、やっぱり不良品なんでしょうか?」

二人は、話しながら裏門から出てきた。

「ああ。個体が育ってしまうのには参ったな」

素奈多は、門柱に背中をへばりつかせたまま、九嵐の後ろ姿を見送る。

「あれじゃ、確率高すぎて倫理委員会が黙ってませんよね」

風をはらんで、九嵐の茶色い髪がふわりとたなびいていた。

彼が歩くたびヒラヒラと翻る白衣の裾が優雅だった。

大きな歩幅が男らしくて、話すときに動く器用そうな指が綺麗だった。


――やっぱ、いつ見てもステキだなぁ~……。

素奈多は、卵を胸に抱きながらうっとりと九嵐を見送った。

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