鏡の国のソナタ
クランは囁いた。

「愛してる」

「もう一度」

「愛してる……素奈多……」

点滴のスタンドは倒れたままだった。

スリッパが、あっちこっちに転がっていた。

素奈多の頭の中は真っ白になって、もう、なにも考えられなかった。

ただ、この掴んだ手を、抱きしめたぬくもりを決して離してはいけないと、それだけを強く想い続けていた。

病室の床に座りこんだまま、二人はかたく抱き合い、わずかな時間を惜しむように何度も何度もキスをした。


時間が止まってしまえばいいと、思った。

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