銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あまりの非現実的さ加減にオーバーヒートしていた頭がようやく現実を受けとめ、ノロノロと働き始める。

 こんなの普通に考えれば有りえない事態だけど、視覚とか聴覚とか、あたしのあらゆる五感が肌を通して切々と訴えかけてくる。

『これは夢でも幻覚でもない。全て現実だ』

 この圧倒的に有りえない、この目に映る摩訶不思議な物の全てが現実なんだ。
 そう自覚したら、たちまち強烈な悲壮感が襲ってきた。

 砂漠の中の凄まじい心細さ。
 未知の世界への激しい恐怖感に身が竦む。

 どうすればいいのかわからない、お先真っ暗な深い深い絶望感に苛まれる。

 なぜなの? なぜあたしにばかり異常事態が起こるのよ? 厄年でもないってのに。

 婚約破棄に続いて異世界トリップ?
 なにそれ! 神様ってあたしに恨みでもあるの!?

 あたしは涙で潤んだ両目を、ヤケクソ気味にゴシゴシ擦った。
 途端に激痛が走って、小さな悲鳴をあげてしまう。

 痛! 手についた砂が目に入った!
 うわ! すごい痛い~~!
 もう! 泣き面に蜂ってこの事!? 最低で最悪!

「いたたた~!!」
「……大丈夫、ですか?」

 突然横から、か細い女性の声が聞こえてあたしは飛び上って驚いた。

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