銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
ここからの一歩
「もうこれで大丈夫だろう」

 ジンが安堵の息をつき、あたしは火の精霊の様子を確認する。

 彼の体はすっかり元通りになったけど、でもまだ意識は不明のままで、死んだように眠っている。

「これで本当に大丈夫なの?」

「ああ、じきに意識が戻るさ。心配ない」

「そう。良かった……」

 あと少しで、永遠に取り返しのつかない事態になるところだった。良かった。本当に。

 雨もすっかり上がって、雨雲も完全に消え去り、抜けるような綺麗な青空が戻っている。
 空気も洗われたように清々しい。

 ぐるりと周囲を見回すあたしの視界の先に、暗い色の塊が見えた。

 それを見た途端に気分が暗転して、ズクンと胸に重い痛みが走る。

 それは、土の精霊と神の船の亡き骸だった。

 ふたつの燃え残りの残骸を見て、あたしはやるせない思いで一杯になり、たまらなくなる。

 火の精霊の命を奪って、罪の贖いにする事が正しい選択とは限らない。

 ただ、この虚しさの募る理不尽な感情は、簡単には払拭されない。

 ふたりの、あの最期を思うと……。

「雫、見てみろ」
「え?」

 ジンが土の精霊の亡き骸を見ている。

 土の精霊の黒く焼け焦げた体の一部分が、懐中電灯ひとつ分くらい、小さく光っている。

 なにかしら?

―― ポンッ!

 光から、軽やかな音を立てて小さな淡い緑色の芽が飛び出た。

「わっ!?」
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