銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 とっさに地べたに突っ伏したあたしのこめかみギリギリを掠めて、火の玉は猛スピードで飛んでいく。

 ジンと土の精霊が、唖然としながら火の玉を目で追った。

 あああぁぁあぶな……! き、き、危機一髪!

 な……な……

「なにすんのよ――!?」

「だから、温める」

「『温める』と『ぶつける』の、どこに関連性があるのよ!?」

 絶対これって仕返しでしょ!? あたしに対する報復でしょ!?

 絶――っ対、そうでしょ!?

 目を三角にして憤るあたしを宥めようと、土の精霊が慌てて弁解した。

「ただのしずくさん。火の精霊は、けっしてワザとではありません」

「いや明白に! 公明正大に! ワザとよこれは!」

「いえ、ごかいです。火の精霊は、加減とか、適度とかが、よくわからないだけなんです」

「火の精霊、お前、いつも本っ当に手加減ないよなあ」

 無表情の火の精霊は、自分の両手を眺めながら、何度も首を傾げて考え込んでいる。

「温める……?」

 そして再び、おもむろに頷いて……

 今度はハンドボール大の火の玉を、思いっきり投げつけてきやがったー!

 だからー!
 球のデカさの問題じゃないんだって!

 やっぱりあんた、完全にすっとぼけてるでしょ!

 内心、千載一遇のチャンスだと思って張り切ってるでしょ!

 ぎゃー!? 今度はニ連発で来たぁ!!

 悲鳴を上げて逃げ回るあたしと、腹立つほど的確に狙いを定めてくる火の精霊。

 必死に火の精霊を止めようとするジンと土の精霊。

 大騒ぎでドタバタする中、モネグロスは完全に放置されて……

 やっと焚き火で温まり、彼の意識が戻ったのは、かなり時間が経ってからだった……。


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