銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「火って綺麗ね」
 あたしの方から、火の精霊に話しかけてみた。

「火も、風も、土も、水も、とても綺麗ね。恐ろしいぐらい大きな力を持っていて、そしてとても美しいわ」

「……」

「それに比べると、人間なんてすごくちっぽけよね」

 人間は神に愛されたというけど、現実は何の力も持たない、ちっぽけな存在。

 なのに人間は、どうやって神の愛を信じることができたんだろう。

 傍らに、神からたくさんの力を与えられた精霊のような存在がありながら、でも自分には、何も与えられてはいなくて。

 それで、どうやって信じたの? なにを信じたの?

『愛している』という言葉だけ?

 そんな不確かなものだけで、人間は、自分の存在価値を信じる事ができたの?

 人間。人間。人間なんて……。

「ちっぽけで……とても愚かだわ」
「我は……」

 突然、火の精霊が話し出して、あたしはしゃべるのを止めて彼の言葉に耳を傾けた。

「我は、お前達と行動を共にすることを望む」

 暗闇に浮かぶ、表情の無い顔の中で、燃えるような真っ赤な目が真剣だった。

 真正面からあたしを見つめるその真摯な姿は、やっぱりとても美しいと思った。
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