銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「城は今、毎晩のように盛大な宴を催しているんだ。狂王が、すでに世界を手中に収めた気でいるからな」

「ああ、なるほど、前祝ってわけね?」

「人間の宴に、女は必要不可欠なんだろう? 踊り子とか、酒を注ぐ女とか。そこに雫が紛れ込むんだよ」

 つまり……あたしがコンパニオンガールに変装して、宴に紛れ込むわけね?

 でもわざわざそんな事をしなくても、狂王はあたしに会いたがっているんでしょ?

 ならそれを利用すりゃいいんじゃないの? 堂々と正面玄関から入ればいいじゃない。

 それなら面倒な事なんてひとつもないわ。

「だめだ」

 ジンが憮然とした表情で断言した。

「狂王が何の目的で雫に会いたがっているのか、分からないだろ。危険すぎる」

「そりゃそうだけど、変装して忍び込むのだって、危険に変わり無いし。……そもそも、何で狂王はあたしに会いたがってるのかしらね?」

「ふん。人間の考える事なんか知るか」

「あたしは、単純に物珍しさだと思うんだけど。なんせ異世界からの来訪者だもの。人間って珍しい生き物が大好きなの。あっちの世界じゃ上野の『パンダ』って動物も、大人気なのよ」

 すると、おやゆび姫のような小さな土の精霊が、不安そうに聞いてきた。

「しずくさん。人間は、めずらしい動物がすきなのですか?」

「そうよ。大好きなの」

「それはやっぱり危険です! しずくさんが、王にたべられてしまいます!」

「いや、好きって、好物って意味じゃないから」

 パンダ食べないし。誰も。
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