銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「……もうじき、ですよね?」

「うむ。宴に参加する人間の女達が、じきにここを通る予定」

「雫、用意はできたか?」

「う、うん」

 あたしは着替えを終え、木陰から出た。

 ジンがどこからか調達してきてくれた、この世界の婦人用のドレスは、肩が大きく開いて腰の部分がキュッと締まっていて、足の甲を覆うほどのロング丈のドレスだ。

 なるほど、この丈が主流じゃ、膝丈なんて有り得ない短さだわ。


 あたし達は長い道のりを経て、ついに狂王の住む城へとたどり着いた。

 いよいよこれから、アグアさん救出に向けての作戦が開始される。

 緊張に逸る心臓を宥めつつ、あたしは自分が着ているドレスをしげしげと眺めた。

 デザインは、ごくシンプル。でも濃く深い青に染められた生地の手触りは、かなり上質。

 シルクのような上品な光沢が見事だし、生地に縫いこまれてる真っ赤な宝石って本物かしら? 色ガラスにはとても見えないけど。

 袖口の飾りも、ずいぶん凝ったデザインだ。

 一応城内に出入りする人間なんだから、ある程度の小奇麗な身なりは必要なんだろうけど、ただのコンパニオンガールよね? 

 それでもこんな上等な服を着ているの? なんだか想像以上に豊かな文化みたい。

「しずくさん、わたしを……」

「あ、うん」

 あたしはノームを拾い上げ、ドレスの胸元に隠した。

「大丈夫? 苦しくない?」

「へいきです。ここ、だいぶ胸と生地の間によゆうがありますから」

「あ……そ……」

 良かったわ。胸元のボリュームがスカスカで。

 複雑な心境のあたしの隣で、モネグロスが遥か頭上を見上げている。

 ついにたどり着いた、狂王の城を。
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