銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 石造りの重厚な城は、森の中から茂みに隠れて裏側を覗いてるだけだけど、頑強な雰囲気が全体に漂っている。

 丸い塔なんかが、ちょっとばかり洒落た感じだけれど、華やかさはほとんど感じない。

 城っていうから、なんていうか、ベルサイユ宮殿みたいなのを想像してたんだけど、華やかな文化の香り漂う……ってイメージには程遠い。

 このドレスはかなり品質が高そうなのに、なんだかアンバランスね。

 モネグロスは、いまにも城の中に飛び込みそうな表情だ。

 実際、いてもたってもいられない心境なんだろう。

 彼にとって、城は愛しいアグアさんの姿に見えているのかもしれない。

「モネグロス、もうすぐだからね」

「雫……」

「待っててね」

 切ない、すがり付く様な目でモネグロスが頷く。

「雫よ、じきに酒や食料を運ぶ列が、女達と一緒にここを通る。それに紛れて、あの裏口から入るべし」

「あ、うん。わ、分かったわ」

 いよいよだと思うと、ますます緊張する。

 なにしろ内部がどうなっているか全然分からないし、当然、中に知り合いなんて1人もいない。

 ノームがついててくれるけど、基本的に単独行動。孤立無援で、敵の陣中で事を成さなきゃならない。

 さすがに不安で、心細くてたまらない。
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