銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「目立たぬようにするのが良しと思われる」

「うん」

「だが迅速に行動しろよ? まごまごしてると危険だ」

「分かった」

「周囲によく注意を払うべし」

「う、うん……」

「だがあまりキョロキョロするな。挙動不審に見られるぞ」

「……」

 注意事項を受けるたびに不安が増してくる。

 本当にあたしにできるかしら? 大丈夫かな?

 心臓はますます激しく鳴るばかりで、ノームが胸元から心配そうにあたしを見上げていた。

「ねえ、あたし、アグアさんを見つけた後はどうすればいいの?」

「状況によるが、簡単に連れ出せはしないだろう。居場所が分かるだけでも上出来だ」

「ぶ、無事かどうかも確認してください! ぜひとも!」

「その後で、酒宴の混乱に乗じてそっと抜け出すんだ」

「よ、よし。うん分かった」

 あたしは自分がやる事を頭の中で反芻する。

 大丈夫よね? 大丈夫、やれるよね? うん大丈夫よきっと。大丈夫大丈夫……。

 自己暗示にかけて、無理やり平静を保とうと努める。

「それからノーム」

「なんですか? ジン」

「目立たないのが鉄則だが、しかし最悪の場合も充分に考えられる」

「はい」

 さ、最悪の、場合?

 ……い、いや大丈夫!

 きっと大丈夫ったら大丈夫! 危険な事態なんて起きるはずがない!
< 173 / 618 >

この作品をシェア

pagetop