銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 心配なのも怖いのも、あたしだけじゃない。みんな一緒。

 だから頑張れる。逃げ出さないで、やれる事をやる。

 そして無事に戻ってくるわ。ジンの元へと!

 あたしは大きく息を吸い、無理に笑顔を作った。

「来たぞ!」

 イフリートが鋭い声で囁く。

 向こう側に、手押し車に積み上げられた大量の酒樽や食料の山が見えて、あたし達は慌てて身を屈め、茂みに潜んだ。

 き、来ちゃった! ついに来ちゃった! ああ、いよいよ作戦開始!

 緊張が高まりすぎて、頭は真っ白。じっとり汗ばむ手を、ジンが力を込めて握ってくれた。

 何台も続く手押し車と、それを引く人夫と、山のような荷物の横について歩く様々な衣装の女達が、通り過ぎていく。

 ついに最後尾の荷台が目の前を通った時、ギュウ!っと痛いぐらい手を握られた。

「雫、今だ行け!」

 反射的に、あたしは茂みから立ち上がる。

 左! 左足から……!

「頑張るべし! 雫よ!」

 ―― ドンッ!

「あわわわっ!?」

 強く背中を押され、あたしは前のめりになりながらヨロヨロ道に飛び出した。

 おぉぉ!? み、右足から出ちゃったじゃないの!

 なんってことしてくれんのよイフリートォ! せっかくのゲンかつぎがあぁ!
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