銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
(しずくさん! いそいで!)

 ノームの声に、慌てて荷台に駆け寄った。

 酒樽に手を添えて、いかにも『あたし手伝ってます』的な雰囲気を作り出す。

 行列の先頭が裏口に到着し、守衛が先頭の男と二言三言、言葉を交わす。

 そして扉が開かれて、みんながぞろぞろと中に入って行くのに従い、あたしも顔を伏せつつ扉をくぐった。

 守衛はこちらをよく見もせずに、何の疑問もなくあたしを通す。

―― ギイィィ……。

 あたしの背中で扉が閉まっていく音がする。

 振り向いて茂みの方を見たら、キラリと小さな銀色の光が走った。

―― バタン!

 そして扉が完全に閉められ、外から遮断されて光が届かなくなる。

 辺りは途端に薄暗くなってしまったけれど、一向は慣れた様子で、一本道の通路を通っていく。

 あたしは不安と緊張で足元がガクガク震えて、とてもじゃないけど普通に歩けない。

 心細さのあまり、多分ものすごい形相になってると思う。

 見られたら確実に不審人物だわ。薄暗くて助かった。

 少し歩いていくと、通路が二股に分かれて、そこで女達と荷台も別々になる。

 あたしはそそくさと女達の列の最後尾につき、顔を伏せながら城の奥へと進んでいった。
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