銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 通路は本当に薄暗かった。

 壁際に沿って作られている複数の小さな窓程度じゃ、充分な光量はとれないんだろう。

 突き当たりに大きな木製の扉があって、その扉がゆっくりと開かれていく。

 開くに連れて、隙間から向こう側の光が漏れてきて、やがて全開になった。

(わあぁ……!)

 通路の薄暗さとは打って変わった、すごい明るさに驚いてしまった。

 窓がそんなにたくさんあるわけじゃないのに、それでもこれだけの大きさの室内を完全に照らしてるなんて。

 ひょっとしてこれも、精霊の力を利用してるのかしら。

 見れば宴はもうすでに始まっていて、大部屋にいる大勢の人間達が、賑やかに酒を酌み交わしている。

 ただのシンプルな木製の長テーブルに、なんの変哲も無い真っ白なテーブルクロス。

 でも、その上にズラリと並べられた料理は豪勢のひと言。

 様々な魚料理や、いろんな動物の肉料理。たくさんの野菜料理や色とりどりの果物が、山のように盛り上がっている。

 焼き物やら、汁物やら、菓子やら、種類も豊富だ。

 そしてシンプルな木製の椅子に腰掛ける人間達は、そのシンプルさに反比例するように、身に付けている物は贅沢の極み。

 遠目で見ても最高級品と分かる生地と、複雑な形の洒落たデザインと、金糸の細かい刺繍。

 襟元や指を飾る宝飾品で身を飾った男達の、けたたましい笑い声。男達にもたれ掛かる女達の嬌声。

 もう宴は完全に出来上がってしまっている。
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