銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 あたしと一緒に部屋へ入った女達は、思い思いの場所へ散っていった。

 酒や料理を運び出す者、男の隣に座って酌をする者と、心得たようにそれぞれが行動し始める。

 えぇっと、あ、あたしはどうしようかしら。適当に動き回ってればいいかしら。

 ウロウロしていると、酔ってフラフラになったヒゲ面の男があたしに近づいてきた。

「なんだ~? お前、見ない顔だな。新顔かぁ?」

 充血した目。耳まで真っ赤になった顔。ろれつも廻ってないし、酒の匂いがプンプン漂ってくる。

 うわっ酒臭い! どんだけ呑んだのよ、このヒゲ面!

 男は身なりは良いけれど、なんだか言葉遣いも態度も粗野で、あたしを値踏みするように見ている。

 うわー、やだー、厄介なのに絡まれちゃったわ。

 あたしは視線を逸らして下を向いた。

「なんだ緊張してるのか? 可愛いヤツだなあ、うははは」

「……」

「気に入った! 俺に酌をしろ! こっち来い!」

 男はあたしの肩に腕を回し、抱くようにして歩き出した。

 ちょ、やめてよ! あたし、あんたに構ってるヒマなんか無いのよ!

 無言で抵抗したけど、引っ張られるように強引に席に座らされてしまった。

「お前、宴は初めてか? どこの出身だ?」

 ニヤニヤ笑いながら、顔をくっつけるように話しかけてくる。

 ヒゲの口元から酒の匂いがぷうんと漂ってきた。

 うぅ~! きっついわこれ! 酒臭いのも嫌だけど、あたしヒゲってダメなのよ! 生理的に!
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