銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 出身地なんか聞かれても答えられないわよ。

 この世界の地名なんかひとつも知らないし、ヘタに会話したらボロが出る。

 ここは笑ってごまかすしかないわ。

「ん~、どこの出身だぁ?」

「……うふ」

「名前は? 名前はなんという?」

「……うふ、うふふ」

「年は? いくつになるんだぁ?」

「うふふ、うふ」

 初対面の女の年なんか聞いてんじゃないわよ! このヒゲ!

 こら! 勝手に人の手を撫でるな! 酒臭い口を近づけるな! 首筋を撫で回すな!

 ちょっと! さっきからお酒零してるわよ、口からダラダラと!

 ……と、心の中で悪態をつきながらセクハラ行為に耐える。

 何を聞かれても、返事はひたすら必死に「うふふ」で通した。

 うぅ~、生理的嫌悪感で背中にぞわぞわ寒気が走る!

 でも我慢我慢~! ここが我慢のしどころ~!!

 何を聞いても笑って「うふふ~」しか言わないあたしに、男は興をそがれたようだった。

「ふんっ。なんだ、こいつ頭の弱い娼婦か」

 ……ムカァ―――ッ!!

 またそれ!? また「娼婦」!? しかも今度はご丁寧に「頭の弱い」ってフレーズまで!?

 この世界ってあたしに恨みでもあるの!?

 なによ! あんたなんか酔っ払いの分際で! そこの酒でヒゲでも洗って出直して来い!!

 ……と叫びたいのをグッと堪え、こめかみに走った青筋を、ぎゅっと手で押さえた。
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