銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 我慢我慢我慢~! ここで騒ぐわけにも、目立つわけにもいかない!

 辛抱して「うふふ」で押し通せ~!!

「うっふっふ~っ!」

「まあ、いいか別に。頭が弱かろうが、ついてるモンはついてるからな」

 そう言って男は、いきなりドレスの胸元に手を突っ込み、あたしの胸を鷲掴みにした。

 ……ぎゃああ――!?

 と声を上げそうになった瞬間、突然男が、椅子ごと後ろに引っくり返った。

 ヒゲ面はバターン!と派手な音を立てて、床に寝転んで目を回している。

「なんだ、こいつまた酔い潰れたのかぁ?」

「まったく毎日毎晩、飲み過ぎなんだよ」

「まあ、いやねぇ。ほほほ」

 周りの席の男女が、たいして気にもとめていない様子で笑った。

 あっけに取られてキョロキョロ周囲を見回すと、あちこちで酔い潰れた者が床に寝そべっている。

 ホッ……騒ぎにならずに済んで良かった。

 こっそり安堵の息をついて、ふと気がついて胸元の奥を覗き込んだら、ノームがニッコリ笑っている。

 ……助けてくれたのね? ありがとう。

 よし、そろそろ行動開始!

 あたしは目の前の酒瓶と空になった皿を持って立ち上がり、料理を運ぶ女達について部屋を出る。

 出口近くにいた兵士らしき男達は、女達に話しかけるのに夢中だ。

 その隙を見て、この場からこっそり離れ、そしてひと気の無い通路の先に進んでいった。
< 180 / 618 >

この作品をシェア

pagetop